2011年12月1日〜15日
12月1日 エリック 〔調教ゲーム〕

 アルバイトの知らせがきた。
 フル稼働で3万セス。たいした金額じゃないが、プレゼントを買う金があるのは楽しいことだ。

 今年はあのひとに何を贈ろう。連中には何がいいだろう。
 ロビンはゲームのソフトが欲しいといっていたが、八千セスはする。フィルはメディカル枕がほしいという。もう予算オーバーだ。

 キースは最近、鉱物ブームだそうで、なんやらいう化石がほしいといっていた。ミハイルは画集。アルのが一番かわいくて、釜で焼いたピザだそうだ。

 ……3万セスで6人てきびしいな。


12月2日  フィル 〔調教ゲーム〕

 アルバイトの知らせがきて、皆はしゃいでいます。

 皆、元気です。ぼくはこの季節はどうしても風邪をひくことが多い。CFに行って、ほかの犬にうつすのも悪いので、部屋で本を読んでひとりで過ごしています。

すると、アルが時々、「さびしくないかい」と邪魔しにきます。アイスやレモンゼリーを持ってきたり、たまに背中をマッサージしてくれることも。
 調子のよくない時に、アルのあったかい手はとても気持ちいいものです。さびしくはないけど、やはりうれしいですね。


12月3日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 クリスマス・プレゼントのことで悩んでいます。3万セスの小遣いで何が買えるんだろう。ご主人様が、みんなが絶対に喜んでくれるものってなんだろう。

 なんて悩んでいたら、キースが興奮して帰ってきた。

「ロビン、相談があるんだ!」

 彼はおれの部屋で息せき切って言いました。

「ピザ釜作らないか?! クリスマス・プレゼントに」

 おれはぽかんとしてしまいました。

「アルにだよ! アルが石釜で焼いたピザ食べたいっていってたろ」


12月4日 ロビン〔調教ゲーム〕

 キースによれば、ピザ釜というのはレンガを積んで簡単に作れるものらしいです。

「日曜大工のクラスに道具はある。働き手と作業場所さえあればできるんだよ。クリスマスまでに、皆で内緒で作るんだ。楽しいぞ」

 それは面白そうだけど、問題はいろいろあります。

「えっと、予算は」

「3万セスぐらいかな」

「……どこに置くんだ?」

「中庭」

 キースは気づき、うっすら口をあけた。

「だめかな」

 家の景観に関わることを勝手にやるわけにはいきません。

「いや、こういう時は、フィルにきこう」


12月5日 フィル 〔調教ゲーム〕

 フィルは冷静でした。

「予算3万セスってのは本当?」

 キースは計算していないと白状しました。
 フィルは

「ぼくはもっとかかると思う。つまり、みんなから給料をシェアしてもらうようになる。彼らのクリスマス予算に食い込むことになる」

 キースはにわかに元気をなくしてしまいました。

「やっぱり、無理かな」

 フィルは彼を見て

「いや、それでもやりたいかどうかさ」

 キースはしばらく目を落としていましたが、

「やりたい。おれひとりでもやる」

 フィルは言いました。

「じゃ、ぼくも乗る」


12月6日 エリック〔調教ゲーム〕

 キースから、ピザ釜製作計画を聞いた。

 おれはおどろいた。みんなで力を合せて、アルのためにピザ釜をつくろうってのか。ご主人様のためでなく。

 キースはもじもじと言った。

「アルはひとの気分に気づくやつだからさ。みんなをいつも助けてくれるだろ。寒くて、心細い日にあったかい飲み物を部屋に届けてくれたり、庭キャンプとか楽しいことを考えたり」

 おれからみると、アルはべつに誰かを助けるため、とかではなく、ほかのやつをかまうのが楽しいからじゃないかと言う気がするが。


12月7日 ミハイル〔調教ゲーム〕

 キースから、ピザ釜を贈る計画を聞いた。

 最初、ピンとこなかった。アル? 
 アルはピザ釜をもらったところで喜ぶだろうか。
 彼はなにか贈られるより、自分で贈りたいほうじゃないだろうか。

「そうだけどさ」

 キースは頑固に言った。

「でも、おれはしてやりたいんだ。たまには。石釜で焼いたピザが食べたいっていうなら、食べさせてやりたいんだ」

 ぼくが黙っていると、フィルが言った。

「ご主人様は庭に設置することを許可されたよ」

 ご主人様がOKなら何をかいわんや。ぼくもOKした。
 

12月8日  フィル 〔調教ゲーム〕

 キースの話に、みんな最初は戸惑ったようです。
 クリスマスのお小遣いはご主人様に、とそれぞれ計画があったのでしょう。

 誰かに危機が迫っていれば、ものも言わず結集する連中ですが、アルはいつも平和でのんきそうにしてますからね。

 でも、彼に受けている恩恵に気づくことはいいことです。アルがいなくなった時に気づくというのではさびしすぎますから。

 それにしても、キースはあいかわらず――。勢いはいいんですが、実行計画はやはり、ぼくがつくるようです。


12月9日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 ピザ釜計画がはじまりました。けっこう楽しい! 

「大きさはピザ2枚同時に焼けるぐらい」

「パンも焼けるように、天井はアーチ状だ」

「まわりに断熱用レンガを組まないとな」

 軍曹もミハイルもノリ気です。フィルが必要なレンガの数を算出しました。炉床分、断熱レンガ、モルタルも含めると材料費は7万セス。

「ひとり14000セスだな」

 余裕! あまった分でご主人様へのプレゼントと、仲間にチョコレートぐらいは買ってやれます。
 しかし、そうは問屋がおろさなかったのでした。


12月10日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 なんということ、アルバイトの抽選にもれたのです。キースとミハイルしか入れなかった。

 家令に文句を言うと、

「今年は応募が多くてね。クリスマスに主人が帰らない家の犬を優先したらしい」

 うちはご主人様が帰ってくる予定なので、あとまわしにされたのです。ご主人様が帰ってくるのはうれしいけれど、それでも現金は必要です。
 ミハイルが言いました。

「二人分合せても予算オーバーだ。それに、ぼくはご主人様にも何か贈りたい」

 早くも中止か、という空気が流れました。


12月11日 ロビン 〔調教ゲーム〕
 
 キースはしばらく考えこんでいましたが、

「じゃあ、力だけでも貸してくれよ」

「金はどうするんだ」

「おれがなんとかする。あの船、現金にするよ」

 船とは、海賊ゲームの賞品ででた18金の船です。

「ちょっと待て」

 フィルがあわてて止め、「計算をやりなおそう。サイズダウンするなりして、もう少し安くなる方法があるかもしれない」

 ひとまず、ふたりはアルバイトに行かせ、ミハイルには最初の予定分は供出してくれるように言いました。ふたりは承知しましたが、少し雰囲気が悪くなったみたいです。


12月12日 アルフォンソ 〔わんわんクエスト〕

 家のなかが変です。
 ミハイルとキースの空気がおかしい。なんかやりあったようです。

 エリックとフィルがふたりのことを話しているのを聞いてしまいました。

「ミハイルも融通きかんからな」

「結局、来るべきものが来たんだよ」

 フィルの分析によると

「ふたりとも一途だろ。ただミハイルのボスはご主人様ひとりで、キースのボスはこの家全部なんだ。優先度が違うものがぶつかりあったのさ」

 事情がわかりませんが、今日はあったかいシチューでも作ってやることにしますか。


12月13日 エリック 〔調教ゲーム〕

 ミハイルとキースがアルバイトに行き始めた。
 傍で見ていてわかるほど、ふたりの空気がしらじらしているのがわかる。

 キースも思いつめたら、ほかが見えないからな。ああいわれたら、ミハイルの立場がないだろうに。

 まったく、アルのために仲間割れしてたら本末転倒だ。
 フィルも頭を痛めていた。

「ヴィラのものは高い。ネットショップ相手に値引き交渉もできないからな」

 どうなるのかねえ、と思っていた矢先、おれは風景を見て、立ち止まった。


12月14日 エリック 〔調教ゲーム〕

 そのドムスは引越しの最中のようだった。
 運送スタッフがせかせかと中から調度品を運び出している。入り口に知り合いの犬が立っていた。

「引っ越すのかい」

「ああ、カエリウス区にね」

 彼ひとりにはだだっぴろすぎるといって、繁華街に近い区域にうつることにしたそうだ。

「ベンチとかいるかい? いろいろ置いていかなきゃならないんだ」

 べつに欲しいものもなかったが、おれは中を見せてもらうことにした。そして、庭にあるものも見て、ひらめいた。


12月15日 ロビン〔調教ゲーム〕

 エリックが手を振り回して帰ってきました。

「いいもの見つけたぞ!」

 彼はみんなに召集をかけ、

「石だよ」

 目を輝かせていいました。

「台座。4フィート四方はあるんだ。もっとあるかもしれない。そいつがタダで手に入った!」

「話が見えない」

 フィルが眉をひそめると、

「石! 刳り貫くんだ。それでオーブンになる!」

 みんなの口が丸くあきました。エリックはどこぞの家から、彫像の台座を貰い受けてきて、それを彫ってピザ釜を作ろうというのです。


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